仮想通貨に対する強制執行
債務者(お金を払わなければならない人)が,仮想通貨を取引所ではなく自分のウォレット上に有していている場合,その仮想通貨を日本法による強制執行によって換価してお金を回収できるでしょうか?
ウォレットのパスワードを把握しているような特殊な状況以外では,難しいと思われます。
日本法のもとで,強制的にお金を回収するための手段は,基本的には次の3通りです。
- 債務者に不動産があるときは,不動産に差し押さえの登記を入れて,競売に付する。不動産を占拠している人がいても追い出せる。
- 債務者が価値ある動産・現金を持っているときは,その場所に執行官が乗り込んで,それを取り上げる。現金以外は売りさばいてお金に変える。鍵がかかっていても,壊すことができる。
- 債務者が,別の人に対して権利を持っている場合(例えば,誰かにお金を貸していてる場合)は,その別の人(第三債務者)に対する権利を差し押さえる。第三債務者も支払いを拒んだら,第三債務者の財産を同様に差し押さえていく。
1は不動産の場合なので、仮想通貨には利用できません。
2は,ウォレットは現実的なモノではないので,執行官が乗り込んで取り上げることはできません。
3について,仮想通貨を誰かが発行していたり,誰かが管理しているのであれば,この方法で強制執行が可能です。しかし,仮想通貨では,ブロックチェーン上に残額のデータがあるだけなので,第三債務者を想定することは通常はできません。取引所のウォレットにある場合に,取引所を第三債務者と想定する余地がありますが,自分ら管理するウォレットにある仮想通貨で第三債務者は想定困難です。
ということで,従来の基本的な考え方では,仮想通貨の強制執行は困難と思われます。
しかも,新たに法律を作っても解決する問題とは思えません。おそらく,無理でしょう。
もう少し,検討します。
例外的に,強制執行が可能な場合として想定されるのは,ウォレットのパスワードを把握している場合です。パスワードが分かっていても,勝手に換金して回収してはいけません。あくまで,法的な強制執行の手続きの中で回収する必要があります。その他財産権の執行という手続きの中で,執行官に管理用のウォレットと作ってもらうなりして(かなり説明と説得が大変そうですが),最終的に回収することはできそうな気がします。
となると,パスワードを把握していない状況で,強制的にウォレットから回収するためには,執行官によるハッキングが必要になると思われます。上記の2の執行で,執行官が鍵屋を連れて行って鍵を解錠するような感じで,ハッカーを連れて行って,ウォレットのパスワードを突破するのです。
ということになりそうですが,そのようなハッカーを国家が用意できるか,というと「ほぼ無理だろう」と思います。
このような次第で,仮想通貨の強制執行は,現状においても,また新しく法律を作っっても難しそうな気がしています。が,もっと知恵のある人が,制度を考えつくかもしれません。
なお、法学者等による詳しい法的検討については、金融法務研究会による報告書があります。